一、エレベーターとは
「エレベーター」とは「人又は物を運搬する昇降機で、かごの水平投影面積が1㎡を超え、又は天井の高さが1.2mを超えるもの」をいいます。なお「物を運搬するための昇降機で、かごの水平投影面積が1㎡以下で、かつ天井の高さが1.2m以下のもの」を「小荷物専用昇降機」といいます。エレベーターは、駆動方式により大きく3つに分類する事ができます。
①「ロープ式」・・・モーターでロープを動かしてかごを昇降させる方式。
②「油圧式」・・・油圧によって上下するジャッキでかごを昇降させる方式。
③「リニアモーター式」・・・通常のモーターにみられる回転運動を、直線方式に置き換える リニアモーターを利用した方式。
このうち、マンションで多く利用されているのは①のロープ式です。ロープ式はさらに2つに分ける事ができます。
❶「トラクション式」・・・「つるべ式」とも呼ばれ、かごと釣り合いおもりをロープでつなぎ巻上機で駆動する最も基本的なタイプです。
❷「ドラム式」・・・「巻胴式」とも呼ばれます。「トラクション式」とは異なり、釣り合いおもりがなく、巻上機のみでロープを巻き上げてかごを上下させる駆動方式です。最近では、巻上機を昇降機頂部又はピット内に設ける、エレベーター機械室のない「マシンルームレス型」が主流となっています。
二、保守契約
マンションの管理組合が、エレベーターの業者と契約を保守結ぶ場合、2つの種類があります。
Ⅰ 『フルメンテナンス契約』
昇降機器の定期点検・調整・修理・部品の取り換えを行う事を内容とした契約です。大規模な修繕を含むので月々の保守料金は割高となります。なお「乗場扉、三方枠の塗装」「かご内の貼物・塗装及び床の修理」「意匠変更による改造」「新しい機能の付加」「新規取り換え」などは通常含まれていませんので注意が必要です。
Ⅱ 『POG契約』
「消耗部品付契約」ともいいます。定期点検や管理仕様範囲内の消耗品の交換は含まれますが、それ以外の部品の取り換えや修理は別料金となります。そこで管理組合としては、予め修理費等を予算として計上しておく必要があります。フルメンテナンス契約以上に注意が必要です。
Ⅲ 料金
点検回数等によっても違いはありますが、 1台につき、フルメンチナンス契約では月額4~5万円台、POG契約の場合で3~4万円台が多いです。また、独立系のメンテナンス会社のほうがメーカー系の場合より多少費用が安い傾向にあります。マンションの平均世帯数である50世帯の管理組合においては、どちらの契約であろうと、1世帯あたり月1千円前後を、管理費として管理組合に納める計算となります(標準管理規約27条)。
建物やどのような種類のエレベーターを入れるかによっても変わりますが、最も費用がかさむ「全撤去リニューアル工事」で、1,200~1,500万円です。なお、エレベーターの耐用年数は、メーカーでは大体20~25年と公表していますが、国土交通省作成の「長期修繕計画に関するガイドラインコメント」では、15年経過したら補修、30年でリニューアルと記載されています。
エレベーターを新設またはリニューアルして10年位は、修理はもちろんの事、大した部品交換もしていないのが現実です。実際の点検作業も、月に1度だけで1時間前後、作業員が目視するだけの場合が多いです。従って、エレベーターの新設もしくはリニューアルから10年間は、フルメンテナンス契約は不要と考えます。
また、建築基準法による定期検査(6月~1年に1回)がある事を考えると、安全のためと称して月に1度の点検が必要なのか疑問です。定期点検が本当に必要になるのは、エレベーターの新設もしくはリニューアルから10年経った時です。新設もしくはリニューアルから10年間は、定期点検の回数を極力減らす事を管理組合は検討すべきだと思います。
一方で、どんなに定期点検をしようが、他の設備同様、エレベーターにも寿命があります。一般的なエレベーターの交換時期は30年といわれています。前述した「全撤去リニューアル工事」で1,500万円の費用が掛かるとした場合、管理組合は1,500万円を30年かけて準備していく事になります。すなわち、年間50万円を修繕積立金として積み立てていく事が必要です。マンションの平均世帯数である50世帯の管理組合においては、1世帯あたり年間1万円を、修繕積立金として管理組合に納める計算となります(標準管理規約28条)。
三、管理費
マンション内に設置されているエレベーターの管理費については、マンションの住民が全員で分担して負担をしています。この事に関して「マンションの憲法」と言われる区分所有法は、第14条第1項において「各共有者の持分は、その有する専有部分の床免責の割合による。」と規定しています。さらに同法第19条では「各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じ、共有部分から生じる利益を収取する。」と規定されています。つまりマンションの住民は、自己の持分に応じて共有部分であるエレベーターの持分も有しており、さらに管理費についても持分に応じて負担をしなければならないのが原則です。
共用部分とはマンション住民が実際に所有している区画(専有部分)以外を言います。共用部分には「法定共用部分」と「規約共用部分」があります。「法定共用部分」とは分譲当初より共同で使用する事が明らかなものであり、マンション内のエレベーターも法定共用部分にあたります。この法定共有部分には、エレベーター以外では廊下・階段室・玄関ホールなどがあり、さらには各部屋と各部屋を繋げている電気配線や上下水道の縦配管なども法定共用部分となります。
法定共用部分については、マンション住民が自己の持分に応じて管理費を負担したとしてもこれに対して異議を唱えるマンション住民はおそらくいないと思います。なぜならは費用対効果から考えても「公平」が保たれているからです。ではエレベーターについても果たして同じ事がいえるでしょうか?
自己の持分に応じてエレベーターの管理費を負担する事は、確かに「平等」ではあるが「公平」とはいえないと考えます。特に1階の住民からすれば、日常の生活の中で使わなくも済むエレベーターについて管理費の負担をする事に抵抗を感じている人は少なからずいるはずです。 それでは、エレベーターを使う事が日常の生活に必要である2階から最上階までに住んでいるマンション住民のみが、エレベーターの管理費を負担する事は「公平」といえるでしょうか?
確かに1階の住民からすれば納得のしやすい方法ではあります。しかし、たとえ1階に住んでいたとしてもマンションの住民である以上、管理組合の一員としてエレベーターを使う機会は必ずある筈です。そこで同じマンションの住民である以上、全員でエレベーターの管理費を負担する事は、不合理な差別とまでは言えないものと考えます。そこで問題となるのはどのように負担するのがもっとも「公平」といえるかどうかです。
おもうに、マンションの分譲開始価格はデベロッパーが設定した価格が通常ですが、マンションでは上層階に行けば行くほど販売価格も高くなるのが一般的です。理由については眺望や騒音、また治安などがあげられています。そうだとするとマンションの値段に応じてエレベーターの管理費を設定するのは一応の根拠があります。もつともここでいうマンションの値段とは、マンション住民が実際に購入した価格ではなく、あくまでも「分譲開始価格」です。そうでないと、販売業者が売却するために値段を下げた場合には収拾がつかなくなるからです。
もっともこの方法だと、エレベーター以外の管理費は自己の持分に応じて管理費を負担するのに、エレベーターだけマンションの分譲開始価格を基準にして負担する事になり、管理組合としては割合の異なる管理費を別個に徴収する事になります。そして区分所有法とは異なる管理費の徴収になるので規約で定める事も必要です。そこで仮にこの方法が最良の方法であったとしても、実現するためには手続きがかなり大変だと思います。
四、結論
以上エレベーターの管理費について述べてきましたが、大切な事は同じマンションに住んでいる以上は出来る範囲で公平な分担を実現する事です。そのためには「区分所有法ではこうなっている」とか「今までこうだったから」というような固定観念にとらわれることなく「公平」を実現するための問題提起をして、管理組合としてまた理事会として活発な議論をする事です。そしてそのためには、マンション住民一人一人が管理組合の一員としての自覚を持つことがまずは求められます。