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管理費等滞納組合員への対策についてはさまざまな方法がありますが、どの方法がベストなのかは、管理組合や管理費等滞納者のその時の状況にもより一概にはいえないのが本当のところだと思います。ただ管理組合としていろいろな対策をとる上で、やってはいけない事や、やらなければいけない事 があるのも事実です。そこで管理費等の滞納が発生した場合の管理組合のとるべき対応について、まずは考え方について解説してみたいと思います。
 
 
1、「管理費等」 
「管理費等」とは、マンション住民が、敷地や廊下や階段等の共用部分の管理に要する経費に充てるために、その持分に応じて管理組合に納める費用の事を言います(マンション標準管理規約第25条)。ちなみに「管理費等」とあるのは、「管理費」のほかに「修繕積立金」があるからです。 
「管理費」は、管理員人件費や公租公課などの通常の管理に要する経費の事です。これに対して「修繕積立金」は、一定年数ごとに必要となる修繕や万一の際に必要となる修繕など、特別の管理に要する経費について充当するために毎月積み立てるお金の事を言います。「管理費」と「修繕積立金」は分けて経理する事が必要です。 
 
 
2、請求
ところで、私は約20年近く損害保険業の仕事をしています。そこで今まで何度も経験してきた自動車事故を例にとって、管理費等の請求について考えてみたいと思います。両者は一見すると全く無関係のようにみえますが、私にはたくさんの共通点があるように思うからです。 
さて、大抵の場合自動車事故においては加害者と被害者が存在します。例えば追突してしまったような場合、加害者は被害者に対してその損害を賠償していく事になります。なお「損害」とは、車など物の修理代、被害者の治療費や休業補償また障害が残ってしまった場合の逸失利益などです。これらの賠償額は、加害者が自動車保険に加入している場合には、保険会社が加害者に代わって被害者に支払いをするのが「通常」です。さらに人身事故となってしまった場合などは、加害者は被害者に対して、謝罪やお見舞いなどをしたりもします。 
もっとも、被害者の中には保険会社対して無理な要求をする人がたまにいます。例えば「先日納車したばかりの車だから新車に替えてくれ」とか「加害者の誠意が足りない」などの、いわゆる被害者感情に基づいての主張です。確かに自動車事故はある日突然起こるものであり、自身に落ち度のない被害者であればあるほど、そういう気持ちになるのはある意味仕方のない事だとも思います。 
しかしながら、前述したように保険会社はあくまでも加害者に代わって賠償額を被害者に支払うにすぎません。謝罪やお見舞いをするのは事故を起こしてしまった加害者自身であって保険会社ではありません。そうであれば、たとえ被害者になったからと言って保険会社に謝罪を要求するのはおかしい事はお分かり頂けると思います。また支払いをする保険会社は、加害者の委任を受けて支払いをする存在なので、万一加害者が保険会社に対して委任の取り消しをすれば、被害者は保険会社に対しては保険金の請求をする事は出来なくなります。先程「通常」と言ったのはこの事を意味します。 
そうすると、「加害者」「被害者」といっても、それはあくまで「自動車事故の当事者」の関係を指すにすぎません。 「賠償の当事者」としてみた場合には、加害者は「債務者」、被害者は「債権者」という関係になります。自動車事故のような不法行為においては、債務者とは賠償金の支払い義務を負っている者の事をいい、債権者とは賠償金を請求する権利を有している者の事をいいます。一見すると債務者より債権者の立場の方が圧倒的に有利に見えます。
それでは債権者となった被害者は、相手方の債務者である加害者から必ず賠償金を受け取る事が出来るか?というと残念ながらそうとは言えないのが現実です。例えば加害者が自動車保険に入っていない場合には、加害者自ら賠償金を支払う事になりますが、その額が大きくなればなるほど支払いは困難になると思います。もちろん賠償金額が大きくなったとしても法律上は債務者である加害者に賠償義務はあります。しかし加害者に支払い能力がない場合、または支払う意思がない場合(決していないとは言い切れません。)には、債権者である被害者が採りうる方法としては法的手段に訴えるしかないのが現実です。取りうる法的手段はいくつかありますが、最も確実性が高いのは訴訟を起こす事です。では訴訟を起こしたとして加害者は被害者に対して賠償金を必ず支払う事になるのでしょうか? 
被害者が賠償金を支払わない加害者に対して訴訟を起こした場合、当然ですが裁判所は加害者に対して、被害者に賠償金を支払うよう判決を言い渡します。下された判決に対して、加害者が被害者に対して賠償金を支払えば解決となります。しかしながら加害者に支払い能力がない場合には、被害者に対して賠償金を支払う事は出来ません。「ない袖は振れない」とはよく言ったものです。加害者に賠償能力がなければいくら被害者が裁判を起こそうが賠償金を受け取る事は出来ません。この結論はたとえ被害者が判決後に、裁判所に対して強制執行の申し立てをしたとしても変わる事はありません。
次に加害者に資産があったり自動車保険に加入しているなどの支払い能力があるにも拘わらず、被害者に対して賠償しない場合について考えてみたいと思います。資産がある場合には、被害者が勝訴判決を得て裁判所に対して強制執行の申し立てをするのであれば、かなりの確率で被害者は賠償金を手にする事が出来ます。また自動車保険に入っている場合は、加害者は被害者より起こされた訴訟に対して、保険会社に委任をして判決によって下された賠償金を支払う事が出来ます。ちなみに「出来る」としたのは必ずそうしなければならない訳でないからです。自動車保険に入っていたとしても保険会社に委任するかしないかは加害者本人が決める事だからです。 
以上より、賠償しない加害者に対して被害者の取りうる手段は「訴訟」だけであるのに対して、加害者が取りうる手段はいくつもあるという事が分かります。さらに加害者には「支払わない」という選択肢もあります。被害者にとっては誠に不愉快な話だと思いますが、賠償の世界では「債権者」である被害者よりも「債務者」である加害者の方が圧倒的に「有利」である事がお分かり頂けると思います。それでは被害者は、加害者に対してどのような考えかで対応していくべきでしょうか?
 
 
3、考え方
被害者は加害者に対して、決して「被害者感情」を出さない事が大切です。大きな被害であればあるほど、被害者の感情は「憎しみ」となって、その矛先を加害者に向けるのが人の常です。では加害者に対して憎しみの感情をぶつけた場合、加害者は被害者に対して気持ち良く賠償額を支払うでしょうか?当たり前ですが、答えはノーです。なぜなら感情と賠償の問題は別次元の問題だからです。それどころか被害者が憎しみの感情を出せば出すほど、加害者の賠償しようとする気持ちはなくなっていきます。つまり「なるようになれ」「すきにすればいい」「訴訟をおこすなら起こせばいい」と考える加害者は決して少なくないと思います。
そもそも事故を起こしてしまった場合、たいていの人は「申し訳ないことをした」と思っています。しかし人間は感情の動物です。被害者から憎しみの感情をぶつけられてしまうと、加害者にも被害者に対する「憎しみ」の感情が生まれてしまい、賠償しなければいけない事は頭では分かっていても心が賠償する事に歯止めをかけてしまうのです。
もっとも、加害者に対して憎しみや怒りの感情を出していけないと言っているのではありません。感情を出しても良い「時」が来るのを待つのです。ではその「時」はいつかと申しますと、それは被害者が加害者から出来る限りの賠償をしてもらった時です。賠償をしっかりしてもらったうえで、なおかつ加害者対して怒りや憎しみの感情があるようなら、感情を出してしまったとしてもそれは仕方ない事だと思います。大変な事だとは思いますが、大切なのはその時まで「猫をかぶる」ことです。間違っても「虎」になってはいけません(笑)。