一、管理会社とは
管理組合から委託を受けて管理事務を行う行為で業として行う者をマンション管理業者といい(マンション管理適正化法第2条第7号、以下適正化法とする。)、マンション管理業者は国土交通省に備えるマンション管理業者登録簿に登録を受けなければなりません(適正化法第2条第8号)。マンション管理業者は、一般的に「管理会社」と呼ばれています。
二、管理組合の業務
管理組合は、管理組合の業務(マンション標準管理規約第32条、以下規約とする)の全部又は一部を、管理会社等の第三者に委託し又は請け負わせて執行することが出来ます(規約第33条)。管理組合の業務とは以下の通りです。
一 管理組合が管理する敷地及び共用部分等(以下本条及び第48条において「組合管理
理部分」という。)の保安、保全、保守、清掃、消毒及びごみ処理
二 組合管理部分の修繕
三 長期修繕計画の作成又は変更に関する業務及び長期修繕計画書の管理
四 建物の建替え等に係る合意形成に必要となる事項の調査に関する業務
五 適正化法第103条第1項に定める、宅地建物取引業者から交付を受けた設計図書の管理
六 修繕等の履歴情報の整理及び管理等
七 共用部分等に係る火災保険、地震保険その他の損害保険に関する業務
八 区分所有者が管理する専用使用部分について管理組合が行うことが適当であると認められる管理行為
九 敷地及び共用部分等の変更及び運営
十 修繕積立金の運用
十一 官公署、町内会等との渉外業務
十二 マンション及び周辺の風紀、秩序及び安全の維持、防災並びに居住環境の維持及び向上に関する業務
十三 広報及び連絡業務
十四 管理組合の消滅時における残余財産の清算
十五 その他建物並びにその敷地及び附属施設の管理に関する業務
三、管理事務
管理組合が管理会社と委託契約を締結する場合には総会の決議を経なければまりません(規約第48条)。そして第三者である管理会社に委託する場合は、マンション標準管理委託契約書による事が一般的です(規約第33条コメント)。管理会社が行う業務の事を「管理事務」と言います。管理事務は以下の通りです。
1、事務管理業務
基幹事務とその他の事務があります。
①基幹事務
Ⅰ管理組合の会計の収入及び支出の調定
Ⅱ出納並
Ⅲマンション(専有部分を除く。)の維持又は修繕に関する企画又は実施の調整
②その他
Ⅰ理事会支援
Ⅱ総会支援
Ⅲその他
2、管理員業務
①受付等
②点検
③立会い
④報告連絡
3、清掃業務
①日常清掃
②特別清掃
4、建物・設備管理業務
①建物点検・調査
②エレベター設備
③給水設備
④浄化槽・排水設備
⑤電気設備
⑥消防用設備
⑦機械式駐車場設備
5、二つ管理事務
①適正化法の管理事務(適正化法第2条第6号)
マンションの管理に関する事務であって、基幹事務を含むものを言います。また管理会社は、管理組合から委託を受けた管理事務のうち基幹事務については、これを一括して他人に委託してはなりません(適正化法第74条)。
②標準管理委託契約の管理事務(第3条)
管理員業務、清掃業務、建物・設備管理業務の管理事務の全部又は一部については第三者に再委託することが出来ますが、事務管理業務については再委託する事は出来ません(第4条)。
そうすると①と②では管理事務の範囲に違いが出てくる事になりますが、これは『適正化法』が、管理会社に対して組合運営の能力に劣っている管理組合を保護するために、基幹業務の委託については一括しての委託は禁止し(バラバラに委託して全部手元に残さない事も禁止)一部分であれば委託する事は出来るとして最低の基準を設定したものであるのに対して、『標準管理委託契約書』は、管理契約書の理想的なサンプルとして法律より厳しく(業者には不利で、管理組合にはメリットとなる)設定をした事によります。なお実際には、適正化法通りに、基幹業務の一部を委託している管理会社がほとんどです。
四、問題点
約9割のマンションが管理会社に委託をしているという現在の状況は、マンションにとって管理会社は必要不可欠な存在である事を意味しています。実際、管理組合の立場に立って適正な管理業務を遂行している管理会社が大半であると思います。しかしながら私の経験からは少なからず問題のある管理会社も少数ではありますが見受けられます。そこで最後に、そのような管理会社の問題点について記載してみます。くどいようですが全ての管理会社に当てはまるものではありません(笑)。もしお住まいのマンションにおいて管理業務を委託している管理会社が以下に当てはまるようでしたら一度管理組合として話し合いをされる事をお勧めします。
1、お客様は神様だけど・・・
管理組合の自立よりも管理委託契約の維持のほうが大切なので、例え理事長が規約等のルールに違反していたとしても見て見ぬふりをします(笑)。そして管理会社による適正な組合支援がなされない結果、いつまでたっても管理組合が自立出来ません。
2、管理事務室は管理会社のもの?
いうまでもなく管理事務室は管理組合が所有しているものであり、事務室内の書類等備品も基本的には全て管理組合の持ち物です。従って管理会社は管理組合の役員が望めば管理事務室に入って書類等を確認出来るようにしなければなりません。しかし管理会社は役員等の管理事務室への入室に対しては非常に消極的です。なぜなら管理事務室の整理整頓がされておらず入室されると困るからです。そのため役員は持ち主なのに管理事務室の鍵を持っていないという状況が発生し、万一災害等があった時には適切な防災活動を行う事ができない事態が発生します。
3、眠った子は起こさない!
仮に管理組合で解決すべき問題があったとしても理事会には報告せず、言われたら仕方なくやります(笑)。なぜなら委託業務費は定額でありやってもやらなくても同じだからです。また実際問題、フロント(担当者)の担当物件が多すぎるため問題があったとしても対応出来ません。そのため問題は極力先送りにし総会や理事会を無事終わらせる事に務めがちです。
4、販売してなんぼ!!
親会社がデベロッパー(分譲会社)の場合、マンションを完売させるため修繕積立金が安く設定されていますが購入者にはきちんと説明されていません。その結果、子会社である管理会社も親会社に遠慮して管理組合に対して修繕積立金の提案ができず、提案をするのは早くても5年後です。そして5年後の総会で修繕積立金の値上げの議案がいきなり出され、組合員の間に衝撃が走ります。
5、経験に勝るものなし?
経験があるフロントほど過去の経験を優先して業務を行うため、実際の区分所有法や規約細則等の理解が不足しています。その結果、区分所有法や規約細則等を踏まえて委託管理業務を行う事ができません。また長年いるというだけで先輩風を吹かす社風のため人材の育成が困難となり、仮に新しく入社しても人が育たず育つ前に辞めてしまうので年がら年中人手不足です。
6、裸の王様
親会社がデベロッパー(分譲会社)の場合、なぜかマンション管理の素人が責任者になります。本人は張り切っていますが廻りは反論出来ないため、素人責任者に皆振り回されてしまい適正な管理業務を行えない事からそのしわ寄せは結局管理組合に来ます。責任者になるのであれば、最低限「管理業務主任者」は取りましょう!
7、火災保険は任せてください?
「管理会社で火災保険を契約すると万一事故があった時の対応が早いです。」などという管理会社ほど残念ながら対応は遅いです。なぜなら保険事故はどこで保険に入っているかで決まるものではなく、事故の状況と保険代理店の資質によって決まるからです。「管理会社で火災保険を契約すると万一事故があった時の対応が早いです。」=「保険の事が全く分かっていない」と考えてまず間違いありません。なお事故が保険の出口だとすると入口は保険の設計になりますが、私は保険金額の設定や補償内容についてキチンと説明できる管理会社に今まで会った事がありません。皆さん、耳障りの良い言葉には注意しましょう!(笑)
8、マンション管理士不要論
残念ながらマンション管理にマンション管理士は必要ないと考えている管理会社は多いです。また邪魔者扱いしている管理会社も決して少なくありません。確かに管理会社とマンション管理士は場面によっては対立せざるを得ない場合もあります(管理費の削減や管理会社の変更等)。しかしながら管理組合の運営を支援するという立場においては両者はいわば車の両輪です。管理組合がマンション管理の知識や技術が圧倒的な管理会社と対等に交渉するためにはマンション管理のプロのサポートが必要な場面が少なからずあります。もしマンション管理士の管理組合への介入を阻止しようとする管理会社がいたら、それは介入されたら困る事をやっている事を自ら認めた事を表しています。管理会社が真に管理組合の事を考えているのであればマンション管理士による管理組合のサポートを喜んで受け入れるべきです。