1、専有部分と共用部分
区分所有建物であるマンションにおける各部分は、すべて専有部分か共用部分に属します。専有部分とは、構造上の独立性と利用上の独立性があり区分所有権の対象となる建物の部分をいいます。それ以外の、階段室やエレベーター室等の共同で使用する部分はすべて共用部分となります。
共用部分は、さらに「法定共用部分」と「規約共用部分」に分ける事ができます。「法定共用部分」とは、廊下・階段室・玄関ホール・エレベーター室など、初めから共同で使用する事が明らかな部分です。これに対して「規約共用部分」とは、本来は専有部分となりうる建物の部分や物置などの付属建物を規約によって特別に共用部分としたものをいいます(区分所有法第4条第2項)。
2、共用部分の持分割合
Ⅰ 区分所有法
各共有者の共用部分の持分割合は、規約で別に定めない限り「専有部分の床面積の割合」によります(区分所有法第14条第1項、同第4項)。「専有部分の床面積」とは、規約で別に定めない限り「壁その他の区画の、内側線で囲まれた部分の水平投影面積」を言います(同第3項、同第4項)。この面積の出し方は内法計算で面積を出す事から「内法説」と呼ばれています。
Ⅱ マンション標準管理規約(以下、規約とする)
各共有者の共用部分の持分割合については第10条で「別表第3に掲げるとおりである。」と規定されていますが、同条関係のコメント①前半において、「共有持分の割合については、区分所有法第14条第1項と同じく専有部分の床面積の割合による」事としています。従って、ここまでは法と規約に違いはありません。違いが出てくるのは、ここからです。
Ⅲ 区分所有法とマンション標準管理規約の違い
①前述のとおり区分所有法では、壁その他の区画の内側線で囲まれた部分の水平投影面積が専有部分の床面積となります。
②一方マンション標準管理規約では、専有部分の壁芯計算により算出された面積が専有部分の床面積となります(第10条関係のコメント①後半参照)。「壁芯計算」とは、界壁の中心線で囲まれた部分の面積を計算する方法をいい「壁芯説」と呼ばれています。
以上の通り、区分所有法とマンション標準管理規約では床面積の出し方に違いを設けています。これは区分所有建物であるマンションには様々な構造のものがあり統一的な基準を定める事が困難だからです。そこで区分所有法は「内法説」を原則としながらも、一方では各マンションに応じて「内法説」とは異なる規約の設定が出来るようにしています。
3、専有部分と共用部分の境界の定め方
共用部分の持分割合が専有部分の床面積の割合による事については、区分所有法とマンション標準管理規約はそれぞれ規定を設けていますが、一方で専有部分と共用部分の境界をどこに定めるかについても、区分所有法はもちろんマンション標準管理規約においても明確な規定はありません。専有部分と共用部分の境界の定め方については学説上見解が分かれており、現在「内法説」「壁芯説」「上塗り説」の3つの学説があります。以下解説します。
Ⅰ 「内法説」
柱・壁・床・天井などの「境界部分」はすべて共用部分であり、境界部分によって囲まれた空間部分のみが専有部分とする考え方です。区分所有法は第14条第3項においてこの考え方を採用しています。また、登記簿に記載されている面積も内法計算により算出されているのが現状です。
Ⅱ 「上塗り説」
壁・天井・床・柱・梁などの「躯体部分」はすべて共用部分であり、その上塗り部分や内装部分は専有部分になるとする考え方です。マンション標準管理規約は、第7条第2項第1号においてこの考え方を採用しています。
Ⅲ 「壁芯説」とは壁・天井・床の中心線までが専有部分で、それ以外は全て共有部分とする考え方です。マンション標準管理規約は、第10条において共有持分の割合の基準となる面積を壁芯計算によるものしています。
以上3つの説のうち、専有部分の床面積が一番広くなる説はどの説かお分かりでしょうか?答えは「壁芯説」が一番広くなります。次に広いのが「上塗り説」です。そして「内法説」は一番狭くなります。
4、「内法説」「壁芯説」「上塗り説」の関係
前述の「共用部分の持分割合」にて説明したように、区分所有法は原則として「内法説」を採用しています。従って専有部分と共用部分の境界については、法律の解釈における予測可能性の点で区分所有法は「内法説」を採用していると考えられます。
これに対してマンション標準管理規約においては、「共用部分の持分」については専有部分の床面積を基準としながらも、その専有部分の床面積は専有部分の壁芯計算により算出された面積ととして、区分所有法とは異なる規定となっています。一方で、専有部分の範囲として「上塗り説」を採用する事も認容しています。
そうするとマンション標準管理規約は、共有持分の割合の基準となる床面積については「壁芯説」により、専有部分の範囲については「上塗り説」を採用している事になり、両者は整合しておりません。そこでそれぞれの説の制度趣旨について解説してみたいと思います。
5、制度趣旨
Ⅰ 「内法説」
マンションの住民は所有している専有部分の固定資産税を市町村に納めなければなりません。そして固定資産税は建物の登記申請を踏まえて計算されます。ところでマンションのような区分所有建物においては、登記申請は専有部分の内法で計算された面積で、登記簿に記載されるのが登記実務となっています。即ち、マンション住民は専有部分の面積が一番小さくなる「内法説」で固定資産税を払っている事になります。
なお、通常の建物は木造ならば柱芯の寸法で求積し、鉄骨造や鉄筋コンクリート造ならば壁芯の寸法で求積しており、固定資産税だけ見るとマンション住民は戸建ての持ち主より若干優遇されているとみる事が出来ます。
以上より「内法説」は、固定資産税と登記実務上から必然的に導かれる考え方と言えます。
Ⅱ 「壁芯説」
マンションの分譲業者はマンションという区分所有建物を建造していく過程において専有部分の販売をしていきますが、購入希望者に対しては販売する専有部分についての床面積について説明する事になります。しかしながら、建造中のマンションにおいては「内法説」で床面積を出す事は物理的に無理があります。当然ながら「上塗り説」で面積を出すことも出来ません。そこで購入希望者に説明する専有部分の床面積は、建造するマンションの平面図に記載されている壁芯寸法により計算せざるを得ません。また壁芯計算により共用持分の割合を決めてい事は不公平とまではいえません。
以上より「壁芯説」は、「マンション」という区分所有建物を建造して販売する過程においては最も妥当な考え方と言えます。
Ⅲ 「上塗り説」
完成後のマンションにおいて専有部分の所有権を取得したマンション住民は、「共同の利益に反しない限り」自己の専有部分を自由に使用・収益・処分する事が出来ます(区分所有法第6条、民法第206条)。
しかし間取りの変更などのリフォームを行う場合には「内法説」や「壁芯説」だとやっかいな問題が発生します。即ち「壁芯説」のように躯体の壁の芯まで専有部分だとすると、壁の芯までリフォームする事が出来る事になりますが、たとえ壁の芯までとはいえ躯体そのものまでリフォームする事は「建物の保存に有害な行為」にあたり許されないからです(区分所有法第7条)。また「内法説」によれば、躯体はもちろんのこと室内の床・壁・天井は全て共用部分となり、そもそもリフォームする事が出来なくなります。この場合には、専有部分と共用部分の境界を、躯体を除く床・壁・天井は専有部分とする「上塗り説」が一番妥当な考え方となります。
以上より「上塗り説」は、専有部分としての使用と共用部分の保存という課題を現実的に解決するための考え方と言えます。
Ⅳ 結論
いうまでもなく、マンションという建物は専有部分と共用部分が混在した建物です。従って専有部分と共用部分の境界を一義的に説明する事は不可能だと思います。
そこで「内法説」「壁芯説」「上塗り説」のどれを採用するかは、結局各管理組合が決めていくしかありません。即ち、マンション標準管理規約を始めとする規約を全く持たない管理組合は、専有部分と共用部分の境界を「内法説」で判断せざるを得ない事になります。もし管理組合が「壁芯説」や「上塗り説」を採用したいのであれば規約を設ける事が必要となります。
私見になりますが、通常、共用部分の管理を行うのは管理組合なので、管理組合として管理しやすいように専有部分と共用部分の境界を定める規約を設ける事が大切です。そうすると、専有部分としての使用と共用部分の保存という課題を現実的に解決するための考え方である「上塗り説」が最も妥当と考えます。ちなみに学説上も「上塗り説」が有力説となっています。