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一、「総会」とは
「総会」はマンション標準管理規約上の用語であり、区分所有法には基本的にはない用語です。区分所有法上は「集会」と規定されており、区分所有者が出席する会議の事をいいます。なぜ区分所有法で「集会」としたものがマンション標準管理規約で「総会」としたかについては定かではありませんが、調べた所、両者は同じ意味ですが区分所有法では規約で別に定めることができるという柔軟な部分が多々あるので便宜的に区別しているようです。
「総会」では、マンションの共用部分を管理していく上で様々な事を決めて行きます。(区分所有法第17条、同18条、以下法とする)。具体的には①保存行為、②利用・改良行為、③変更行為である。これらの行為を決める権限を有しているのが「総会」であり、したがって「総会」は管理組合にらおける最高意思決定機関であす。日本国の政治に例えるなら、「国会」にあたるのが「総会」と言えます。
 
 
二、議決事項
総会議決事項については、マンション標準管理規約第48条に規定されており、理事会議決事項については同規約(以下、規約とする。)第54条に規定されています。
 
 
三、特別決議
マンション標準管理規約(以下、規約とする。)において、『規約及び使用細則等の制定・変更・または廃止』は総会の議決事項です(規約第48条第3号)。ただし総会において決議するためには、「普通決議」(規約第47条第1項、第2項)では足りず、組合員総数の4分の3以上及び議決権総数の4分の3以上が必要です(区分所有法第31条第1項⦅以下法とする。⦆、規約第47条第3項第1号)。この決議の事を「特別決議」と言います。 
そして、総会の議決事項である『規約及び使用細則等の制定・変更・または廃止』の案は、管理組合の行うべき業務の執行(規約第32条)を総会で選任された理事(規約第35条第2項)からなる理事会(規約第51条)が決議します(規約第54条第1項第2号)。 
問題となるのが「別表」に『管理費・修繕積立金』の記載がある場合、『規約及び使用細則等の制定・変更・または廃止』が特別決議である事から、『管理費・修繕積立金』の記載も『規約』の一部であるとして、総会で『管理費・修繕積立金』の金額を変更する場合にも特別決議が必要となるのではないか、という事です。
この点判例は、「別表」の『管理費・修繕積立金』の記載は暫定的なものであり、総会で『管理費・修繕積立金』(以下、管理費等とする。)を変更する場合には普通決議で足り、特別決議は不要であるとしています。理由としては以下のように考えられています。 
『マンション標準管理規約第48条は、総会決議をしなければならない事項として、第3号で「管理費等及び使用料の額並びに賦課徴収方法」、第4号で「規約及び使用細則の制定、変更または廃止」と規定しており、「管理費等の額の決定」と「規約の変更」については別項目にして規定している。一方で、規約第47条は総会の会議及び議事について、第3項で特別決議が必要な事項として「規約の制定・変更・廃止」とのみ規定している。 
そうすると第48条では「規約の変更」と「管理費等の決定」については別項目として規定しているにも拘わらず、第47条では特別決議事項として「規約の変更」についてのみ規定している以上、「規約の変更」と「管理費等の決定」を同一に取り扱う事は出来ない。従って「管理費等の決定」については特別決議事項には当たらず、たとえ「別表」に『管理費・修繕積立金』の記載があったとしても、当該記載をもって規約の一部と考える事は出来ず、「管理費等の決定」は普通決議で足りると考える事が合理的である。』
以上のが判例の見解ですが、判例を踏まえた上で私なりの見解を以下述べてみたいと思います。
 
1、管理費の変更について
「管理費」とは、管理員人件費、公租公課、共用設備の保守維持費・運転費、火災保険の保険料等の『通常の管理に要する経費』です(規約第27条)。管理組合がこの管理費の変更をしようとする場合に、『別表』の記載も規約の一部であるとして特別決議が必要だとするとする事は、実際問題あまりにもハードルが高く管理組合の迅速な運営をかえって阻害する事になります。そこで、管理費の変更については、判例が根拠とする規約の条文と迅速な管理組合の運営をする必要性から、普通決議で足りるとする事は妥当であると考えます。
 
2、修繕積立金の変更について
「修繕積立金」とは、大規模修繕工事費や、不測の事故その他特別の事由により必要となる修繕等の『特別管理に要する経費』であす(規約第28条)。マンションという「区分所有建物」を長期に渡って良好に維持・管理していくためには、一定の年数の経過ごとに計画的に修繕を行っていく事が必要であり、そのためには予め、修繕箇所や修繕時期、また必要となる費用について管理組合として計画しておく事が必要です。この計画の事を『長期修繕計画』といい、必要となる費用の事を「修繕積立金」と言います。管理組合は定期的に長期修繕計画を見直すことが必要とされており(規約第32条コメント②)見直す事により修繕積立金の変更が必要となる場合があります。従って修繕積立金の変更は長期修繕計画の見直しとリンクしている事にります。そして長期修繕計画の作成または変更は、総会の決議事項であり(規約第48条第⑤号)普通決議で足ります(規約第47条第1号)。そうすると、せっかく普通決議により長期修繕計画を変更する事になったとしても、もし修繕積立金の変更に際して特別決議が必要とするならば、修繕積立金を変更する事が出来ない場合が生じる可能性があり、長期修繕計画を変更した意味がなくなってしまう事になります。そこで修繕積立金の変更についても、管理費同様、判例が根拠とする規約の条文と長期修繕計画を実施していく必要性から普通決議で足りるとする事は妥当であると考えます。
 
3、使用料の変更
「使用料」とは、駐車場使用料その他の敷地及び共用部分に係る使用料の事を言います(規約第29条前段)。そして、使用料はこれらの管理に要する費用に充てるほか修繕積立金として積み立てるものとされています(規約第29条後段)。そうすると、使用料は「管理費」と「修繕積立金」が混合されたものであり、そうであるならば、「管理費」「修繕積立金」同様にたとえ「別表」に「使用料」の記載があったとしても、総会で使用料を変更する場合には普通決議で足りるとする事は妥当であると考えます。
 
以上より、「管理費」「修繕積立金」「使用料」は、たとえ「別表」に「使用料」の記載があったとしても、全て普通決議で足りる事になるので「規約」に記載をしても普通決議により変更する事が出来ます。またそうする事で管理組合の運営を迅速に行う事が可能となります。もっとも、管理組合内における無用な混乱を避けるためには、管理費等については「規約」ではなくて「使用細則」において記載してくことがお勧めです(規約第18条)。そうすれば条文上も特別決議が不要とした上で(規約第47条第3項第1号)、普通決議により変更する事がが明確になるからです(規約第47条第2項)。
 
 
四、義務違反行為
区分所有者または占有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理または使用に関し、区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはなりません(区分所有法第6条第1項、第3項、以下法とする。)。
 
1、行為停止等の請求(法第57条第1項、第4項)
もし区分所有者または占有者がこの義務違反行為をした場合、またはその行為をするおそれがある場合には、他の区分所有者の全員または管理組合法人は、区分所有者の共同の利益を図るため、
 
①その行為を停止し、
②その行為の結果を除去し、
③またはその行為を予防するために必要な措置を取る事を請求する事が出来ます。
 
これらの請求は、訴訟によらない場合には区分所有者または占有者は集会の決議なくして単独でこれらの請求をする事も出来ます(法第57条第2項)。なぜなら、「建物の保存に有害な行為その他建物の管理または使用に関し、区分所有者の共同の利益に反する行為」に対する行為停止等の請求は民法上の保存行為と同一視できるからです(民法第252条但書)。一方で、これらの請求を訴訟によって起こす場合には必ず集会の決議によらなければなりません(法第57条第2項)。この事は管理組合が法人化されていようがいまいが同じです。そして訴えを提起する場合、
 
①管理組合が法人化されている場合には、管理組合法人が訴えを提起します。
②管理組合が法人化されていない場合には、他の区分所有者は全員で訴えを提起する事が出来るのはもちろんであるが、それは現実的ではないので集会の決議により、❶管理者または❷集会において指定された区分所有者が訴えを提起する事が出来ます(法第57条第3項)。
 
2、使用禁止請求(法第58条)
区分所有者が義務違反行為(法第6条第1項)をした場合、またはその行為をするおそれがある場合には、他の区分所有者の全員または管理組合法人は、区分所有者の共同の利益を図るため、相当の期間にわたって義務違反行為である区分所有者による専有部分の使用禁止を請求する事が出来ます。ただしここで言う「区分所有者がこの義務違反行為をした場合、またはその行為をするおそれがある場合」とは、
 
①義務違反行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しい場合
②法第57条の「行為停止請求」によっては、その障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図る事が困難である場合
 
の二つの要件が必要です(同第1項)。また、この請求は区分所有者及び議決権の4分の3以上の多数による集会の決議に基づいて、必ず訴えをもって行わなければなりません(同第2項)。さらに使用禁止請求の集会決議をする場合には、あらかじめ義務違反者に対して弁明する機会を与える事が必要です(同第3項)。専有部分は区分所有権という「所有権」である以上は本来『使用する権利』が認められています。ただしこれらの権利も無制限に認められるわけではなく法律の範囲内において認められている権利です(民法第206条)。すなわち、権利といっても他人の権利を侵害する事まで認める事は出来ないので、そのような場合には法律によって制限を加えているのです。そこで区分所有者の義務違反行為について、区分所有法は使用禁止を請求する事が出来るとした上で、一方では使用禁止請求は所有権の侵害に当たる事から、使用禁止請求に行為の停止請求以上の条件をつけて区分所有者間の衡平を図っています。そしてこれらの請求を訴訟によって起こす場合には、法57条の行為停止請求同様必ず集会の決議によらなければなりません。この事は管理組合が法人化されていようがいまいが同じす(法第58条第4項→法第57条第3項)。
 
3、区分所有権の競売請求(法第59条)
区分所有者が義務違反行為(法第6条第1項)をした場合、またはその行為をするおそれがある場合に、「行為停止等の請求」(法第57条第1項)や「専有部分の使用禁止請求」(法第58条第1項)によっても共同生活の維持を図る事が困難であると認められる場合には、最終手段としてその区分所有者の区分所有権および敷地利用権の競売を請求する事が出来ます。具体的には民事訴訟として区分所有権競売請求事件の訴訟提起をする事にります(法第59条第1項)。この請求を訴訟によって起こす場合には、法57条の行為停止請求同様必ず集会の決議によらなければなりません。この事は管理組合が法人化されていようがいまいが同じです(法第59条第2項→法第57条第3項)。また、この請求は区分所有者及び議決権の4分の3以上の多数による集会の決議に基づいて、必ず訴えをもって行わなければなりません(法第59条第2項→同第58条第2項)。さらに競売請求の集会決議をする場合には、あらかじめ義務違反者に対して弁明する機会を与えなければなりません(法第59条第2項→同第58条第3項)。
 
以上より、義務違反者が区分所有者の場合には、区分所有法は
①まず管理組合に行為停止等の請求を認め、
②次に行為停止等の請求では共同生活の維持を図る事が困難である場合には管理組合に使用禁止請求を認め、
③さらに使用禁止請求でも共同生活の維持を図る事が困難である場合には、管理組合に競売請求を認める事で、
「区分所有者の共同の利益」(法第6条第1項)を図ろうとしているのです。
 
4、占有者に対する引渡請求(法第60条)
違反者が占有者の場合、行為停止等の請求では共同生活の維持を図る事が困難である場合には、管理組合は占有者が占有する専有部分の使用または収益を目的とする契約の解除、および専有部分の引渡請求をする事が出来ます(法第60条第1項)。これらの請求を訴訟によって起こす場合には、法57条の行為停止請求同様必ず集会の決議によらなければなりません。この事は管理組合が法人化されていようがいまいが同じです(法第60条第2項→法第57条第3項)。即ち訴えを提起する場合は、
 
①管理組合が法人化されている場合には、管理組合法人が訴えを提起する事になります。
②管理組合が法人化されていない場合には、他の区分所有者は全員で訴えを提起する事が出来るのはもちろんであるが、集会の決議により❶管理者または❷集会において指定された区分所有者も訴えを提起する事が出来ます。
 
さらにこの請求は、区分所有者及び議決権の4分の3以上の多数による集会の決議が必要です。(法第60条第2項→同第58条第2項)。なお、専有部分の引渡請求の集会決議をする場合には、あらかじめ義務違反者である占有者に対して弁明する機会を与えなければなりません(法第60条第2項→同58条第3項)。そして、専有部分引渡請求訴訟において、判決により専有部分の引渡を受けた管理組合法人、区分所有者の全員または管理者や集会において指定された区分所有者は、遅滞なくその専有部分を賃貸人等の本来の区分所有者に引き渡さなければなりません(同第3項)。