1、考え方
大規模修繕工事を行うためには①まず長期修繕計画を立てて、②次に修繕積立金を試算して、③その上で修繕工事を進めていく事になります。つまり長期修繕計画如何によって修繕工事の出来不出来が決まる事になります。そういう意味では不特定多数の人達が暮らすマンションにおいては、管理組合の集会等において時間をかけてでも作成しなければならない計画であるし、また一度立てた計画であっても、数年おきに見直しをすることが必要です。
2、「長期修繕計画作成ガイドライン」
「長期修繕計画作成ガイドライン」は、平成20年6月に国土交通省が作成したものです。このガイドラインは、マンションにおける長期修繕計画の作成・見直し・修繕積立金の額の設定に関して基本的な考え方を示す事で 、マンションの計画修繕工事の適時・適切・円滑な実施を図る事を目的とています。以下簡単に解説してみたいと思います。
Ⅰ 対象範囲
「長期修繕計画」における対象の範囲は、単棟型のマンションの場合
①管理規約に定めた組合部分である敷地
②建物の共用部分および付属施設(共用部分の修繕工事または改修工事に伴って修繕工事が必要となる専有部分を含む)
です。設備配管等の修繕等において共用部分の修繕に伴い生じる専有部分の修繕工事は、長期修繕計画の対象に含まれる事になります。
Ⅱ 見直し
長期修繕計画は5年程度ごとに見直す事が必要とされています。そして見直しの際には修繕積立金の額も見直す事が大切です。見直しの目的は大きく2つに分ける事ができます。
①建物および設備の性能・機能を新築時と同等水準に維持・回復させる修繕工事である事。
②区分所有者の要望など必要に応じて、建物および設備の性能を向上させる改良工事である事。「維持・回復」させるだけでなく「向上」させる目的を持って見直しをする事が大切です。
①と②をまとめて、通常「改修工事」と呼んでいます。
また修繕積立金の見直しについてですが、積立については3つの方法があります。
①計画期間に積み立てる金額を均等にする方式(均等積立方式)
②段階的に増額する方式(段階増額積立方式)
③修繕時に一時金を徴収する方式
どちらの方式を採用するかは各管理組合の方針によりますが、本ガイドラインでは①の均等積立方式を基本としています。②や③の方式だと、増額ないしは徴収しようとする際に区分所有者の合意形成が出来ずに修繕積立金が不足する恐れがあるからです。
Ⅲ 修繕周期の設定
修繕積立金について均等に積み立てる方式を採用するとして、それではいったいいつ修繕するのかが次に問題となります。通常、建築系の修繕周期と設備系の修繕周期は分けて考えます。本ガイドラインによれば、建築系の修繕周期についてはおおむね12年程度、設備系の修繕周期については15年程度とされています。
一見すると設備の方が老朽化しやすいように思うかもしれませんが、紫外線や風雨、また雪などの自然現象に直接さらされている建物自体の方が老朽化しやすいのが現実です。
建築系と設備系の修繕周期が同じでない場合には、当然ながら修繕工事も別々に行う事になります。しかし仮設工事などは建築系の修繕工事と設備系の修繕工事では共通する場合がある事から、別々に工事をするとその分の費用が余計に掛かる事になります。そこで一応の周期は決めて置いたとしても、費用がムダにならないように修繕工事を進めていく事が大切です。
なお大規模修繕工事は、その計画から資金調達そして実施に至るまで全て総会の議決事項とされており(マンション標準管理規約第32条)、その議決は普通決議で足りると考えられています。
Ⅳ 計画期間の設定
修繕周期を設定したら、次にどの位の期間を定めて計画するのかを設定していきます。本ガイドラインによれば、新築の場合は30年以上、既存の場合は25年以上とされています。ただこれらの年数については確かな根拠があるわけではありません。
ただ考え方としては、25年なり30年はあくまでも最低の期間である事を踏まえて計画を立てるべきだと思います。
ちなみに私は、本ガイドラインによる最も長い修繕周期は36年である事から、新築のマンションにおいては新築時から36年、既存のマンションの場合は新築した時から36年までの期間を最低の計画期間とすべきであると考えています。
Ⅴ 収支計画
最後に、長期修繕計画を立てる上で検討すべき事として収支計画があります。当然の事ですが修繕工事費用を算出した上で、その額を下回らないように修繕積立金を積み立てていく事が大切です。特に維持管理に多額の費用が掛かる機械式駐車場等については、管理費会計や修繕積立金会計とは別に、駐車場使用料だけの会計を設けておく事をお勧めします。そうする事で修繕工事の計画が立てやすくなるからです。