一、防災とは
「防災」とは「災害を防ぐ」事です。そして「災害」には「人災害」と「自然災害」があります。「人災害」は防ぐ事ができるかもしれませんが、「自然災害」は防ぐことができません。ただし「自然災害」に対しては、事前に予防対策をとることで被害を少なくして(減災)、被害の発生に対しては適切な対応処置をとり(応急)、その後の復旧・復興を早めることができます。
そこで現在「防災」とは①人による災害の発生そのものを防ぐこと(狭義の防災)のみならず、②自然災害による被害を予防して、いち早く復旧することも含んでいます(広義の防災)。
なお1995年の阪神・淡路大震災以降、社会に重大な被害を生ずる自然災害の事を「危機」といい、その被害対応については「危機管理」と呼ばれています。
二、マンション防災
1、はじめに
マンションの防災を考える時、戸建て住宅の場合とは異なる視点が必要です。というのは戸建て住宅の場合は、床や壁、また屋根の向こう側は屋外であるのに対して、マンションの場合は、床や壁、また天井の向こう側は必ずしも屋外ではなく、他人の住居や廊下、階段などになっている場合が多く、構造上の大きな違いがあるからです。
ところでマンションの「構造」は法律上2つに区分けされています。①マンション住民の住居である「専有部分」と、②専有部分以外の廊下・階段・集会室や敷地等の「共用部分」です(区分所有法第2条第2項、第3項)。
そこでマンションの防災対策を行っていく際には、これら2つの「部分」を同時並行的に行っていく必要があります。
2、「共用部分」の防災支援
Ⅰ.防火対象物
マンション等の共同住宅は、防火管理を行わなければならない「防火対象物」です(消防法施行令第1条の2第3項 別表第一)。管理組合は、政令で定める資格を有する者のうちから「防火管理者」を定めて、防火管理を行わせなければならないと定められています(消防法第8条第1項)。防火管理者の資格には「甲種」と「乙種」があり、建物全体の延べ面積が500㎡以上の場合には甲種防火管理者、500㎡未満の場合には甲種防火管理者か乙種防火管理者が防火管理を行います(消防法施行令第3条、消防法施行規則第2条)。なお収容人員が50人未満の場合には防火管理者は不要です。
Ⅱ.防火管理業務(消防法施行令第3条の2)
①「消防計画」の作成業務(第1項)
防火管理者として、防火対象物であるマンションの実態に合わせた消防計画の作成を行います。マンション住民の皆様が、理解して活動しやすい計画のご提案をさせて頂きます。
②消防計画に基づく消火・通報・避難訓練の実施業務(第2項)
①の消防計画に定めた消化・通報・避難訓練を定期的に企画・実施します。
③消防設備、消防用水または消火活動上必要な施設の点検および整備の補助業務(第2項)
年2回の機器点検を代行し、不具合があった場合には、速やかに整備の手配等の補助を行います(建物の延べ面積が1,000㎡未満の場合に限ります)。
④マンションに設置されている避難器具や防火戸などの維持管理業務(第2項)
年2回の機器点検代行業務の際に、不具合があった場合には、速やかに整備の手配等の補助を行います(建物全体の延べ 面積が1,000㎡未満の場合に限ります)。
Ⅲ.マンションの防災体制の構築
①「防災マニュアル」作成および改善業務
防災士として、マンションの実態に合わせた防災マニュアルを作成します。理事会や総会での丁寧な説明を通して、管理組合様の合意形成に尽くして参ります。また防火訓練や防災訓練の実施により、防災マニュアルを検証して改善を行います。
②防災訓練の実施業務
❶災害発生時の緊急対応の模擬行動としての「実技訓練」と、❷図上で一定の状況を付与してシュミレートする「図上演習」を企画・実施します。防災訓練後には、アンケートやグループディスカッション等により、防災訓練の有効性を自己評価して頂きます。
③防災セミナーの実施業務
近年の自然災害を踏まえた上で、❶災害対策の基本である「自助」、❷マンションの防災力を高めるため住民が協力して行う「共助」、❸国や地方公共団体が行う救助活動・避難所の開設・救援物資の支給・仮設住宅の建設などの「公助」等の災害被害の軽減についてのセミナーを企画・実施します。
④「自主防災組織」の結成および運営支援業務
1995年の阪神・淡路大震災時に、生き埋めや閉じ込められた人の救助を誰が行ったかの割合は、「自助 : 共助 : 公助」=「67:31:2」でした。この事実は、災害時にはまず自分と家族の安全を守る「自助:67」がいかに重要かを表わしています。そして「共助 : 31」は、人命救助の点において、隣近所の助け合いが「公助」よりも圧倒的に優れていることを意味します。また阪神・淡路大震災では,血だらけの被災者を前に,他地域から来た消防団の方が、身がすくんで動けなくなったということもあったようです。そんなときに頼りになるのが、顔見知りの隣近所の方です。普段から近所づきあいを大事にしておけば,あなたに何かあったときには、必ず助けてくれる筈です。またあなた自身が助けに行けます。そのためにはマンション内において、マンションの特性を理解したうえで、災害に備えるための組織が必要となります。この組織の事は、通常「自主防災組織」と呼ばれています。そこで「自主防災組織」結成の支援をお手伝いさせて頂きます。また結成後は、防災訓練や防災セミナーを通して、運営のお手伝いをさせて頂きます。
⑤行政機関や自治会との折衝および調整
管理組合様の、災害時における行政機関や自治会との連携について、意見交換の場を作るなどの橋渡しを行います。
⑥防災相談業務
マンションの共用部分における防災についての悩みなどの相談に応じます。
3、「専有部分」の防災支援
Ⅰ.家具等の転倒防止支援業務
前述したように、災害対策の基本は「自助」です。どのような事態においても「自分の命は自分で守る」という「覚悟」と「備え」が必要です。阪神淡路大震災では、亡くなった人の8割以上が、地震直後の、崩れた家屋や、倒れてきた家具、テレビなどの下敷きになり、短時間のうちに亡くなりました。そこでこのようなことにならないように、マンションの専有部分内において家具などの転倒防止の支援を行います。
Ⅱ.「住宅用火災警報器」の設置支援業務
2004年の消防法改正により、新築住宅については2006年6月から、既存住宅については2011年6月までに「住宅用火災警報器」の設置が義務付けられました。「住宅用火災警報器」が設置されている場合は、設置されていない場合と比べて、被害状況がほぼ半減しており、火災発生時の死亡リスクや損害の拡大リスクが減少する事が分かっています。そこでマンションの専有部分内における、住宅用火災警報器の設置をサポートします。
Ⅲ.防災相談業務
マンションの専有部分における防災についての悩みなどの相談に応じます。
4、さいごに
阪神淡路大震災で倒壊家屋の下から救出された方のうち、地域の近隣住民により助け出された方は全体の約8割でした。この事実は、日頃から計画を立てて防災訓練をして行く事で、いざという時には、多くの方の命を守れる事を意味しています。
また、東日本大震災では、多くの地域でたくさんの犠牲者が出ましたが、一方では、いち早く避難する事で、全員助かった地域も数多くありました。この事実もまた、日頃の避難計画や避難訓練がいかに大切か、を物語っています。
これらの事実をマンションにあてはめて考えてみた時、管理組合様による、お住まいのマンションの特性に合わせた「防災計画」の作成が何よりも大切であると考えます。そして作成した「防災計画」に基づいて、避難誘導、避難所開設、初期消火、応急手当などの訓練を継続して実施していく事で、いざという時に可能な限りの「共助」を実現できるのだと思います。
管理組合様が効果的な防災対策を行えるよう、マンション管理士としてまた防災士として精一杯サポートさせて頂きます。