一、保険金額
火災保険の保険金額とは、万一火災等の事故があった場合に保険会社が契約者に対して支払う保険金の限度額の事を言います。一般的には保険会社が作成している火災保険の価格評価に基づいて設定していきます。適正な保険金額で火災保険を付保しておけば、万一事故があったとしても保険金だけで復旧していく事が可能です。
二、再調達価額 (新価額)
今のマンションを新築する場合に掛かる費用の事を再調達価格と言います。火災保険を掛ける場合は、この再調達価額を保険金額とします。そうすれば万が一事故があっても保険金だけで復旧する事ができます。また事故がない場合には必要最低限の掛け金で済む事にもなりますので管理費の削減にも繋がります。なお再調達価額は、保険会社の価額評価を参考にして決めていくのが一般的です。
三、共用部分の範囲
管理組合として加入する火災保険は、あくまでも『共用部分』であって『専有部分』ではありません。専有部分については各区分所有者が任意に加入します。そこで専有部分と共有部分の境界が問題となってきます。
さて、区分所有法は第14条第3項において「内法説」を採用しています。この考え方は、柱・壁・床・天井などの「境界部分」はすべて共用部分であり、境界部分によって囲まれた空間部分のみが専有部分とする考え方です。ちなみに登記簿に記載されている面積も内法計算により算出されています。
一方で区分所有法は、規約により「内法説」とは別の定めを規約で設定する事を認めています。そして管理組合が規約を設定する場合の指針として国土交通省によって作成された「マンション標準管理規約」は、第7条第3項第1号において「上塗り説」を採用します。この考え方は、壁・天井・床・柱・梁などの躯体部分は共用部分であり、その上塗り部分や内装部分は専有部分になるとする考え方です。
四、「内法説」と「上塗り説」の再調達価額の設定
「上塗り説」と「内法説」では、共用部分の範囲は「内法説」が広くなりますので、マンションの再調達価額も「上塗り説」よりも「内法説」の方が高額になります。それではどのくらい高額になるか?ですが、実は保険会社でも、「内法説」と「上塗り説」の再調達価額を明確には分けて評価していないのが現状です。おそらく評価する事自体が困難だからと思われます。なお現状では、「上塗り説」を基準とした上で再調達価額を設定する事が出来るようになっています。なぜならマンションの分譲契約においては、躯体部分を共用部分とした上で、その上塗り部分や内装部分は専有部分として販売している事が一般的であり、そうする事で「専有部分としての使用」と「共用部分の保存」という課題を現実的に解決する事が出来るからです。そこで、現状ではマンションの管理組合が共用部分に火災保険を掛ける場合、その管理組合に管理規約があろうとなかろうと、「上塗り説」を基準とした再調達価額で掛ける事が出来ます。
五、専有部分の火災保険
専有部分に火災保険を掛ける場合、たとえ再調達価額を保険金額として掛けたとしても「上塗り説」による管理規約がない場合には、保険会社は区分所有法が採用する「内法説」での支払いをする可能性がないとは言えません。
具体的には、万一専有部分に事故があった場合に「内法説」によると、柱・壁・床・天井などの境界部分によって囲まれた空間部分のみが専有部分となるために、柱・壁・床・天井などの「共用部分」は、専有部分として掛けた火災保険では補償されない事になるからです。
一方で共用部分の火災保険は「上塗り説」での支払いとなるため、柱・壁・床・天井などは「専有部分」と見なされて、やはり補償されない事になります。
少なくとも理論上はこうなります。
六、結論
管理組合が共用部分に火災保険を掛ける場合、また住民が専有部分に火災保険を掛ける場合には、単に保険会社と契約をするだけでは足りません。火災保険を掛ける前に、まずは管理規約で「上塗り説」を採用しているがどうかを確認する事が大切です。管理規約がない場合には、「上塗り説」での管理規約を作成するようにして下さい。